桜沢エリカ減算短編小説「青い月とアンビバレンスな愛」
『眠れない』
それはやけに静かな夜だった。
窓をあければ心地よい秋の夜風が入ってきて、時折、雲の切れ間から覗く月が、梨絵の住む街を見下ろしていた。
『私、さっきから何やってるんだろう』
テレビをつけては消してみたり。
ソファに横になったり、起き上がったり。
早く寝なきゃ、そう思うほどに胸がざわつく。
別にイライラしてるわけじゃないのに。
『私に今、悩みなんてない』
今年の春に大学をなんとか卒業して、希望していたデザイン事務所に勤めることになった。
“やりたい仕事に就けた私”は、それなりにがんばってきた。
今は仕事もだいぶこなせるようになったし、社内での人間関係も当たり障り無い感じで。
「まぁ、想像していたとおりかな。」
よく、周りの友達からは「梨絵は世渡り上手だよね」なんてことを言われる。
今日の仕事終わりも、上司から飲みに行こうって誘われたけど、「今日はたまってる仕事があるので…」と、それとなく断って帰って来た。
でも嫌な顔はしないし、誘いは無くならない。